■いつかは・・・
国産の高級車と言えばトヨタ自動車の「クラウン」を思い浮かべる人
(特に中高年層)も多いのではないでしょうか。
純国産自動車としては最も長い歴史を持っており、終戦から
10年しか経っていない1955年に誕生して以来、常に自動車
オーナーが求める日本の高級車像を具現化してきました。
パトカーなどの警察車両を代表に官公庁の公用車や企業の
社用車として広く用いられていることからはクラウンに対する高い
信頼性を伺い知ることが出来ます。
またタクシーやハイヤー、自動車教習所の教習車などといった
業務用車両としても使用されていたことから、その耐久性の高さも
確かなものがあります。
七代目のキャッチコピーであった「いつかはクラウン」は多くの
自動車のオーナーにとって共通の想いであり、そんな想いを
裏切ることなく2015年には誕生60周年を迎えました。
■純国産の初代
第二次世界大戦中の自動車生産と言えば軍用トラックが中心であり、
終戦後日本経済全体を立て直す礎となった1950年の朝鮮戦争
特需においても軍用トラックの生産が中心でした。
ちなみに戦後の占領政策として実施された財政金融引き締め政策
(ドッジ・ライン)によってデフレが進行して「ドッジ不況」が引き起こ
され多くの企業が経営危機に陥る中、トヨタ自動車もご多分に
漏れず倒産の危機に瀕したものの、朝鮮戦争特需によって倒産を
回避しています。
連合軍による占領統治下の時代、アメリカの軍人などが自動車を
日本に持ち込んだことにより、日本人に自動車への憧れが
生まれます。
1952年に当時の通商産業省(現・経済産業省)によって
欧州からの技術導入が進められ、自動車メーカーの多くが
欧州メーカーと技術提携を結ぶ中、トヨタ自動車は純国産メーカー
としての道を選び、1955年に純国産車としてクラウンを開発する
のです。
そのスタイリングはアメリカ車の影響を強く受けているものの、
大きさなどを日本の道路事情に合わせたことが大きな成功を生む
要因となりました。
また1959年には既にアメリカで主流となりつつあった2速
オートマッチックトランスミッション(AT)を参考に2速半自動式AT
「トヨグライド」を開発します。
これは対北米輸出を意識したほかに、将来的にイージードライブ
時代の到来を予見していたためであり、現在生産されている
自動車の多くがAT標準装備であることを考えると、その先見の明
には驚かされるばかりです。
■進化し続ける
1962年にフルモデルチェンジされた二代目は、翌年に控えていた
名神高速道路の開通を皮切りに次々と高速道路が整備される中で、
その「ハイウェイ時代」に対応するために車体を大きくし、エンジンも
より排気量の大きいものを搭載、さらにシャシーにも改良を加えます。
ちなみにクラウンの代名詞とも言えるフロントグリルに取り付け
られている王冠のエンブレムは、この二代目のものが現在まで
手直しを加えられながら受け継がれています。
三代目は、1965年に車体の色に関する規制(消防車や救急車と
間違えるという理由で、赤と白は国産車では使用出来なかった)が
無くなったことから「白いクラウン」をキャッチコピーとして、それまで
営業車など法人向けのイメージを払拭して自家用車として市場を
拡大していきました。
五代目では世界で初めてオーバードライブ付き4速ATが装備され、
最上級グレードである「ロイヤルサルーン」も登場します。
1973年の石油危機で省資源化が叫ばれる中でディーゼル
エンジンを用意、さらに排気ガス規制も強化されるなど、この頃から
環境対応を求められることとなります。
六代目で前列パワーシートやクルーズコンピューター、電子
チューナーを搭載したオーディオなど先進的な設備を他メーカーに
先駆けて採用、さらにボディの2トーンカラーも用意されることと
なりました。
トヨタ自動車創立50周年に登場した八代目では、電子制御エア
サスペンションやエレクトロマルチビジョン(カーナビの前身)、そして
日本で初めてのトラクションコントロール(発進・加速時のタイヤの
空転を防止する装置)など最先端の装備が導入されました。
八代目の販売時期がバブル景気と重なったこともあってクラウン
史上最高の販売台数を記録し、年間販売台数でカローラ、マークⅡ
に続く第3位となったこともありました。
十二代目では、これまでのユーザーの高齢化と志向の細分化に
よる若者のクルマ離れの危機感からプラットフォームやエンジン、
スタイリングなどを一新、高級車としての要素はそのままに高い
走行性能をプラスした「ゼロクラウン」として生まれ変わりました。
現行の十四代目では、限定生産ながら「モモタロウ」と呼ばれる
ピンクのボディカラーが登場し大きな衝撃を与えました。
2015年、クラウンは誕生から60年を迎えますが、これまでも
これからも最上級にして最先端の自動車で有り続けてくれる
はずです。